◆台北にバルトンの銅像が復元◆
台北にバルトンの銅像が復元
本年3月30日、日本と台湾をonlineで結んで、一つの祝典が行われた。
それは、日本と台湾で「近代水道の父」と仰がれるスコットランド人衛生技師ウイリアム・K・バルトンの銅像(胸像)が台北に復元され、その除幕式を共に祝うためであった。
復元の場所は、バルトンが愛弟子の濱野弥四郎と共に炎熱のもと悪疫や抗日ゲリラの攻撃に身を曝しながらも3年間敢然と水源地探索や市街地の衛生環境調査を実施して描き上げた台湾主要都市の上下水道建設計画の青写真に最初の給水場としてマークされたところで、今は台北水道博物館となっている。この青写真の完成を終えバルトンは、来日(1887)以来12年振りに初めて賜暇を得て本国に里帰りする途中東京で肝臓アプセスを発病し、急逝した(享年43)。幸い事業は濱野が引き継ぎ、延々22年の工期を経て見事完成を見た。濱野がいよいよ台湾を去る時、最後の責務として携わったのが恩師バルトンの銅像建立(1919)であった。
除幕式は今から102年前の今日であった。除幕式の式辞で濱野は、「この世に生を受けたもので悠久の生命を願わない者はいない。それにはどうすればよいか。自己の天職を尽くして、これを全うすることである。バルトンこそそういう人であった。」と述べた(稲場紀久雄著「都市の医師―濱野弥四郎の軌跡」より(1993水道産業新聞社刊)。このエンジニア魂こそ濱野が、また後に続く数多のエンジニアに連綿と引き継がれているという。

しかしながら、この原像は、無残にも太平洋戦争の金属回収令により撤去されたままとなっていた。
爾来70余年、紆余曲折を経てバルトン像復元の要請は台湾と日本双方で高まり、特にバルトン研究の第一人者稲場紀久雄氏が率いる日本下水道文化研究会の熱意と協力が実現に向けて大きな原動力となったと聞いている。従って今回の除幕式も、コロナ禍で渡台できない日本からの参列者に配慮して、異例にも台北と東京(台北駐日経済文化代表処=大使館に相当)をonlineでつなぎ、同時開催の形式で挙行されたのであった。勿論、参列者の数は台北・東京ともコロナ・ウイルスの為、大幅に制限せざるをえなかったようだが、式場はスクリーンに浮かぶ凛として生気あふれる青年バルトンの胸像の前で、生命の守りに全力をささげたバルトンへの感謝と尊敬にあふれた温かい祝辞が充満し、玄孫のケヴィン・メッツさんの津軽三味線と当協会の山根篤さんのバグパイプが奏でる故郷スコットランドの「アメージング・グレイス」と「スコットランド・ザ・ブレイヴ」のメロディが鳴り渡ると参列者一同襟を正し、深い感銘を受けたという。このような形で、これまでも例年の慰霊祭やエディンバラでの記念碑建立に積極的に参加してきた当協会が今回もバルトンへの恩返しに一役買えたことは誠に喜ばしい。
ここに当日の祝辞のいくつかを要約してご紹介したい。
(稲永)
カ・ブンテツ台北市長
現在一般の家庭では、水道の蛇口を開けたらすぐ清潔な水が出てくるのは当たり前のことと考えられているが、百年前の人々にとってはきれいな水を手に入れるのは容易ではなかった。だから台北水道の建設が困難を伴いながら今日まで発展してきたのはバルトン先生の尽力によるもので、この先生の功績を記念するため、本日バルトン先生銅像の復元式を行うことになった。
将来とも、我々はきれいな水を飲むたびに、常に先人の努力への感謝の念を忘れないよう心掛けたい。
バルトンの曽孫鳥海幸子(京都在住)
皆様の測り知れないご尽力により、高名な彫刻家蒲浩明先生の手になる気品ある立派な胸像が完成し、ゆかり深い台北水道博物館に再建されますこと、子孫としてこの上ない喜びです。
曾祖父バルトンの霊も、没後122年の時空を超えて皆様と共にあることでしょう。
小池百合子東京都知事
バルトンは東京の上下水道の基本計画策定に携わり、また第7代東京市長を務めた後藤新平に請われ、台北でも上下水道の整備に尽力した。今なお世界中が新型コロナとの厳しい戦いを続けている。私たちはこの未曾有の難局にあっても、バルトンを初めとする先人達のように将来を見通した事業に取り組み、未来を切り開くことが求められている。今後も台北市と様々な分野で交流を重ね、友好関係を築いていきたい。
高橋愛朗JSS理事長
本日の慶事は、現在新型コロナ・ウイルスが世界中に蔓延し、全人類に大きな脅威となっている状況に照らすと、まことに意義深いものがある。なぜなら、今日の除幕式は皆様方がこの勇敢なスコットランド人エンジニアを久しく記憶に留めんとの熱意に燃えて、今日私どもが享受している安全な飲み水と健全な衛生システムを誰に負っているかを常に思い起こす大切さを如実に教えてくれるからです。近い将来御地を訪ね、「バルトンさん!」と親しく日本語で語りかける日が一日も早く来るよう祈っている。

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