第1章
第2回 「クライド河遊覧」

 グラスゴー市内を流れるクライド河(River Clyde)はグラスゴーの母なる河である。「クライド河がグラスゴーを造り、グラスゴーがクライド河を造った」と言われる。グラスゴーはSt. Mangoに由来する大聖堂と、それに続くハイストリートの集落から始まったが、19世紀後半に「英帝国第2の都市(2nd City of Empire)」と称されるようになったのはクライド河沿いに発展した港湾と海運、造船や重機械工業のおかげである。産業や人々の生活にとってスコットランドでもっとも重要な河である。
 クライド河はTay河、Spey河に次いで、スコットランドで3番目に長い河でもある。グラスゴーの南東約160kmのラナーク州に発し、グラスゴーの西約40kmで大西洋に注ぐ。このクライド河に遊覧船があるというので乗ってみることにした。

出発地点:市内中心部のセントラル・ステーションから南に歩いて数分、クライド河を渡る鉄道橋の下に遊覧船の船着場があり、ここから数十人乗りの小さなボートで西方のブレ−ヘッドに向かって下って行くのである。目的の港ブレ−ヘッドまで大体40分である。片道でも良いが、帰りをバスにすると結構時間がかかるので往復が便利である。眺望の良いデッキに席を取り待つことしばし、ボートはやおら出港する。船上からの見所は結構多いが、3ヵ所ほどご紹介したい。

Water Bus
遊覧ボートClyde 2号:市内の船着場はセントラル駅か南へ向かう鉄道がクライド河を渡る鉄橋のすぐ下にある。ここから河を下ってブレ−ヘッドまで約40分。料金は往復で5ポンドである。
Glenlee
Glenlee号:1896年建造の貨物船。
今はヨーク埠頭に係留されていて浮かぶ博物館になっている。当時の航海や船上での生活の様子(それは厳しい!)が良く分かる。

グレンリー(Glenlee):出港して間もなく、右手に新しいコンベンション・センターと「グラスゴーのエッフェル塔」といわれるフィニーストンのクレーン(1932年に建造された当時最大の能力を誇った起重機)が見え、それを過ぎるとおなじく右手に帆船グレンリー号が見えてくる。18世紀終り、時代はとっくに蒸気船の時代ここクライドの造船所で建造された貨物帆船で、世界中を航海した。日本の長崎にも寄港している。船の所有者と船籍は度々変わり、スコットランド、チリ、イタリ−を転々としたが、1994年にスペインでスクラップされる直前に発見され生まれ故郷のクライドで修理・復元された。

Govan Shipyard:20世紀始めまでグラスゴーは世界最大の造船業の町であり、最盛期に全世界の船の20%がここグラスゴーで建造された。 その後、ヨーロッパ、アメリカ、特に日本の造船業との競争に敗れ,現在はここGovanと対岸のYarrowの2ヵ所が残るのみである。Govanも身売り話が絶えない。かってクイーン・メリー、クイ−ン・エリザベスT世、U世や多くの名船、名艦を生んだクライド造船業の栄光は今は無い。両岸に延々と続く造船所の廃墟を見ていると寂寞とした感じを禁じえなかった。

Govan Shipyard
Govanの造船所:クライド河南岸にある。グラスゴーに現存する2つの造船所の一つ。大きなフェリーを建造中だった。
CLYDEbuilt
CLYDEbuilt博物館:Braeheadにあるグラスゴーの海運と造船の歴史博物館。18世紀からの交易の様子、造船業の発展と技術、ここで建造された船と活躍した人々を紹介している。

クライドビルト(CLYDEbuilt)博物館:遊覧船の終点はブレーヘッド(Braehead)でクライド河南岸にある。元の工業地帯が再開発され、今はスコットランドで最大と称せられるショッピング・モールになっている。モールの方は家族連れの買い物客で賑わっているが、遊覧船の着く埠頭すぐ近くにある博物館クライドビルトはグラスゴーの海運と造船の歴史に関する展示が豊富で非常に面白い。17世紀から世界と交易したグラスゴー・マーチャントの挑戦心、18世紀に世界の造船をリードした技術力、その地位が急速に失われていった過程が良く分かる。グラスゴーらしい第1級の博物館である。

 ブレ−ヘッドで2時間ほど過ごし、また同じ遊覧船に乗り往路と同じルートを今度は反対向きに航行してグラスゴーに戻る。ご紹介した以外の見所として、コンベンションセンターやサイエンス・センター、まだ現役で活躍している“最後の外洋型外輪船 Waverley号”(出港していなければだが)が見られる。

 天然の景勝を見て廻る観光遊覧船とはまったく違う趣の遊覧だったが、何か勉強したという充実感がある半日であった。


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